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第5章 第2話 樺太神社跡  

 森の中に突然現れた白い洋館(脚注1)。あまりの意外な展開に戸惑ったが、洋館の下の石垣がどことなく神社っぽい。

 窓越しに人の姿が見える。どなたの家だかわからないが、叱られたらその時はその時、と思いそのまま洋館伝いに裏へ。
 裏には立派な庭が広がっていて、それなりに手入れはされているようでそこそこきれいだ。

 その庭園の一番奥。小屋が建てられていて、そこにわき水が出ていた。先程私を追いこして行ったおばあさんがペットボトルにわき水を汲んでいる。どうやらここが神社跡なのだ。

 神社跡と言っても視覚的な名残りは何も残っていない。

茂みの小道。石垣の上に建つ白い洋館とそこへ続く階段。その裏手の庭。更に一段上がった場所に広がる庭園。わき水の小屋。小川と沼地。

日本で私達が見なれたような形の神殿が、鳥居が、かつて、この場所に建っていたはずである。そして多くの日本人で賑わっていたのだろう。しかし、今、私の目の前に広がる光景はその面影を何一つ残していない。

 よくRPGゲームで廃虚の街の類いが出て来たりするが、何となくそんな感じの、どことなく淋しさを感じさせる。だが、これはゲームでなくて歴史上の事実なのだ。歴史は教科書上だけのものって思っていたふしがあった。しかし、過去の事象は現実のものとして、今を生きる私達へと繋がっているのだ。そんないろんな事をとりとめもなく思いながらしばらく庭園を眺めてた。

 水を汲み終わったおばあさんのあとには、ジョギング途中の女の子4人組が体を休めにやって来た。また別のおばあさんが水を汲みにやってきた。庭園で遊ぶ子どもらもやってきた。

 今では市民の憩いの場所として、いろんな人が水を求めてやってくる。平和とか、なんかいろんな事を考えさせられた場所だった。

つづく  

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 脚注1:帰国後、ネットで調べたところ、旧ソビエト時代に建てられた高級ホテルらしい。

樺太神社跡